レジームシフト という概念

水産を語るうえで欠かせないワード レジームシフト を解説す。

水産に関係ない方も日々の食卓に関わるテーマなので、教養として知っておいて損はないと思います。

レジームシフト とは?

レジームシフト で辞書を引いてみると、

『気候変動やかく乱などによって起こる生態系の機能や構造の大規模な変化により,漁獲対象種の種類や量に大きな変化が起こること』

と定義されています。

言葉で見るといまいちわかりずらいので、下のグラフを見てもらえればと思います。(※水産庁HPより)

レジームシフト =グラフ

※各折れ線はそれぞれ緑=マイワシ青=スルメイカ赤=カタクチイワシを指す。

まず、前提として、水産資源は毎年平均して同じくらいの量が獲れ続けているわけではなく、グラフのように毎年大きな振れ幅で急増したり急減したりを繰り返しているのです

レジームシフト というのは何かというと、
この年ごとの水産資源(特にマイワシやカタクチイワシで顕著。)の漁獲量の変化が30~50年で周期的な増減を繰り返していると主張する学説ですね。

漁獲の内、多くを占める魚種が数十年に一度入れ替わることをレジームシフト=魚種交代と呼びます。

レジームシフト =魚種交代

元々、レジームとはフランス語で『政治体制』を意味します。レジームがシフトするわけですから、政権が交代するわけです。

これを魚の話に当てはめると、大洋で多くの資源量を占めていた魚種が、数十年周期で政権が交代するように入れ替わるのです。

ex:上のグラフを見ると、マイワシ政権からカタクチイワシスルメイカ政権への交代が起きていますね。

レジームシフト =イワシ

【マイワシ】

⏩体の側面に黒い点が7つ並ぶため、別名『ナナツボシ』とも呼ばれる。巻網漁での過剰な捕獲による資源の減少が心配される。

魚種交代は世界中で同期している!

実はこのマイワシの魚種交代は、日本近海だけでなく、カリフォルニア沖やチリ沖などの他のマイワシが大量に漁獲されている地域でも同期して起きているんですね。

※つまり、日本近海でマイワシ政権がカタクチイワシ政権に交代すると、アメリカ、チリでも同じように政権が交代するということ。

これは、過去の化石などのデータから何百年も前から繰り返し同じような増減を続けてきたことがわかっています。

最初に提唱したのは日本人!

実は、この レジームシフト という考え方が世界に受け入れたのは1980年代とかなり最近で、それまでの水産業界の常識では1980年代から起こったマイワシの漁獲量の激減は、獲りすぎによるものだと考えられていました。

特に、この頃は反捕鯨運動に代表されるような動物愛護運動が隆盛の時期でしたから、魚の資源減少が必ずしも人間の手によるものだけでないという社会のトレンドに異を唱えるような学説は欧米社会には受け入れがたかったでしょう。

しかし、日本の水産研究者の川崎建氏は前述したようなイワシ資源の世界的に同期した資源の変動が起こっていることを発見し、発表しました。

というのもマイワシというのは、1988年に日本の総漁獲量の40%を占める450万tが漁獲され、日本の水産を支える中心魚種でした。それが90年代から2000年代に入って激減していくのが日本社会的にも衝撃的だったんですね。

80年代の釧路港のマイワシの水揚げの様子をご覧ください。溢れんばかりのマイワシが!!笑

原因は気候変動?

当初、学会にこの考えを提唱したとき、世界中の学者たちには相手にされなかったそうですが、川崎さんの研究が更に進むとレジームシフトが受け入れられ、今では有力な説とされ、水産資源を語るうえでは欠かせないワードとなっております。

レジームシフトが起こる要因として提唱されているのが、数年の周期で起こる全球的な気候変動です。

実際に川崎さんの研究では、この気候変動値とレジームシフトの増減に一定の相関があることが示されています。

地球の気温は数十年単位でレジームシフト同様、上がったり下がったりを繰り返しているんですね。

これは、太陽活動の周期的な変化によるものだと考えられており、太陽の黒点数(少なければ太陽活動が活発。)と地球の気温は同期しています。

海水温でも、同じような数十年単位の気候変動が起きていまして、この現象はPDO(太平洋十年規模振動)と呼ばれます。

【PDO(大平洋十年規模振動)】

⏩太平洋各地で海水温や気圧の平均的状態が、10年を単位とした2単位(約20年)周期で変動する現象。海洋と大気が連動して変化。

実際に川崎さんの研究では、このPDOとマイワシの漁獲量の増減に一定の相関があることが示して、レジームシフトの存在を証明しています。

魚は一度に大量の卵を産むので、マイワシで一度に仮に5万粒卵を産み×1年後の生残率を0.1%とすると、生残率が0.01%上昇しただけで500匹も生残個体が増えることになるので、少しの環境変化によって資源量が大きく変動することがわかるかと思います。

マイワシ資源は増加傾向へ!

近年、上の図のようにレジームシフトの減少期に入っていたマイワシ資源は再び増加に転じているそうです。一方で、スルメイカ資源は激減して大不漁のようですね。

最後に

レジームシフト という考えに基づくと、資源の減少というのが必ずしも乱獲に基づくものではなく、少なからず地球の全球的なマクロ要因というのも影響している可能性があるということがおわかりいただけたのではないでしょうか。

しかし、大切なのはあくまで レジームシフト というのは一つの仮説であるということです。日本が他国に比べて高い漁獲圧で水産資源量にダメージを与え続けてきたのは明らかですし、今後も適切な資源管理方法を発展させていかねばなりません。

レジームシフト の減少期だから、資源が少ないのだからこれまで通りの漁獲を続けても良いという風に考えるのではなく、 レジームシフト の減少期で資源が少ないので今は多い資源を使おうという風により建設的な方向に物事を考えていきたいものですね。

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