須磨シーワールドは鴨川シーワールドだった。1,300円のスマスイが持っていたもの

2025年2月、神戸須磨シーワールドを訪れた。

2016年に神戸市立須磨海浜水族園を訪れて以来、9年ぶりに同じ場所に立ったことになる。料金は1,300円から3,100円へ。建物は完全に建て替わり、西日本唯一というシャチが泳いでいた。

新しく、大きく、明らかに金がかかっている。

それなのに、館内を回りながら感じたのは高揚ではなかった。「これは鴨川シーワールドだ」という既視感だった。

そして帰ってから調べて、その既視感には根拠があることを知る。

この記事では、旧スマスイと現在の須磨シーワールドの両方を訪れた立場から、この9年で何が変わり、何が失われたのかを書いておきたい。


既視感の正体は、運営会社だった

まず事実関係から整理する。

神戸須磨シーワールドを運営しているのは、グランビスタ ホテル&リゾートという会社だ。そしてこの会社は、千葉県の鴨川シーワールドも運営している。

両館は公式に「姉妹館」と位置づけられている。

さらに、須磨の目玉である西日本唯一のシャチ展示とパフォーマンスは、鴨川で培われた飼育技術を活かしたものとされている。シャチの飼育・調教は極めて難度が高く、国内でこれを継続的に行ってきたのは鴨川だけだ。須磨にシャチが来られたのは、鴨川のノウハウがあったからにほかならない。

つまり、似ているのは偶然ではない。同じ会社が、同じ技術で、同じ思想で作った施設なのだから、似ていて当たり前だった。

これは批判ではない。むしろ経営としては極めて合理的だ。確立された運営モデルを別の立地に展開するのは、チェーン展開の基本である。老朽化した公営施設を建て替え、シャチという集客力のあるコンテンツを持ち込み、ホテルを併設して滞在時間と単価を上げる。事業として、これ以上ないほど筋が通っている。

ただ、利用者として立ったとき、そこには別の感想が生まれる。


旧スマスイは「雑多」だった

2016年9月の須磨海浜水族園の外観。三角屋根の本館と入口の看板
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対比のために、2016年のスマスイを思い出したい。

あの施設は、率直に言ってまとまりがなかった

  • 本館の大水槽にはサメやエイが泳ぎ
  • アマゾン館にはピラルクをはじめとする熱帯淡水魚がいて
  • ワニが水陸両方から見える水槽にいて
  • ラッコの幼獣の剥製が展示ケースに置かれ
  • さらに動物園まで併設されていた

海水魚と淡水魚、魚類と爬虫類、そして陸上動物。「水族館」という枠に収まらないものが、次々と現れる。

だから回るのに時間がかかった。順路を進んでも進んでも、まだ何かある。この「まだある」という感覚が、あの施設の体験の中心だったように思う。

展示の質が均一だったわけではない。古い水槽もあったし、洗練されているとは言い難い部分も多かった。それでも、種類の多さそのものが迫力になっていた。

そして解説板には「きれいな花には棘がある」といった、公営施設らしからぬ砕けた見出しが並んでいた。誰かが面白がって書いている気配があった。


効率で考えれば、あれは非合理だった

冷静に見れば、旧スマスイの構成は経営的には無駄が多い。

淡水と海水では、ろ過も水温管理も設備が別系統になる。アマゾンの熱帯魚を維持するには加温が要り、冷水性の生物とは真逆のコストがかかる。爬虫類や陸上動物を抱えれば、飼育員の専門性も分散する。

展示を絞れば、コストは下がり、運営は楽になる。

実際、近年オープンする水族館の多くは特化型だ。クラゲに絞る、深海に絞る、淡水に絞る。カワスイは淡水魚だけ、加茂水族館はクラゲで有名になった。選択と集中は、水族館経営の定石である。

須磨シーワールドも、その意味では正しい。シャチという最強のコンテンツを軸に据え、パフォーマンス施設として設計を最適化した。投資を回収するには、その方が確実だ。

だが、そこで消えるものがある。

旧スマスイの雑多さは、公営だからこそ許された非効率だった。 収益を最大化する必要がないから、ピラルクとイルカが同じ敷地にいられた。教育施設として「いろいろな生き物を見せる」ことが目的だったから、統一感がなくてもよかった。

その非効率さこそが、あの施設の豊かさだったのではないか。


変わったもの、残ったもの

実際に両方を見た印象を整理すると、こうなる。

入口から変わった。

須磨海浜水族園外観
須磨シーワールドのシャチのモニュメント

旧スマスイの入口には、控えめなイルカの銅像が置かれていた。三角屋根の下、ヤシの木に挟まれた、地味と言っていい佇まいだった。

現在の入口には、波を模した台座の上に2頭のシャチのモニュメントが立つ。「KOBE SUMA SEA WORLD」の文字が円形に配され、その前で来館者が記念撮影をしている。

入口の設計思想が、施設の性格をそのまま表している。 前者は「近所の水族館」の入口で、後者は「観光地」の入口だ。

シャチが来た。

海を背景にした巨大なスタジアムで、トレーナーの合図に応えてシャチが身を乗り出す。観客席はほぼ埋まっていた。

これは旧スマスイにはなかったものだ。3,100円という価格の中身は、間違いなくここにある。 見応えという点で、シャチのパフォーマンスは圧倒的だった。

大水槽は残った。

アクアライブの大水槽には、エイやサメ、無数の小魚が泳いでいる。これは旧本館の水槽を引き継いだものだ。

薄暗い空間で、青く光る水槽を見上げる。この体験だけは、9年前と地続きだった。


高くなったのではなく、別物になった

結論として、須磨で起きたことは「値上げ」ではない。

1,300円のスマスイと3,100円の須磨シーワールドは、そもそも違う商品だ。前者は市民が日常的に立ち寄る教育施設で、後者は遠方から人を呼ぶ観光リゾートである。価格が2.4倍になったのは、売っているものが変わったからだ。

そして観光リゾートとして見れば、須磨シーワールドは正しく作られている。シャチがいて、スタジアムがあり、ホテルが併設され、写真映えする入口がある。満足度の高い一日を過ごせる施設であることは間違いない。

ただ、そこにあるのはどこかで見たことのある体験でもある。同じ運営会社の型に沿って作られている以上、それは避けられない。

一方、旧スマスイの雑多さは他のどこにもなかった。ピラルクとイルカとワニと動物園が同じ場所にある施設を、筆者は他に知らない。あれは須磨にしかなかった。

民営化で得たものは、投資と、シャチと、新しい建物。

失ったものは、1,300円という価格と、あの非効率な豊かさだった。


まとめ

  • 神戸須磨シーワールドの運営はグランビスタ ホテル&リゾート。鴨川シーワールドの姉妹館にあたる
  • シャチの展示は鴨川の飼育技術を活かしたものであり、既視感には明確な理由がある
  • 旧スマスイは水族館・アマゾン館・動物園を併設した雑多な施設で、回るのに時間がかかった
  • その雑多さは経営的には非効率であり、公営だから維持できたものだった
  • 須磨で起きたのは値上げではなく、施設の定義そのものの変更である

閉館した水族館の記録は、行った人間にしか残せない。今後も、姿を消した施設について書いていきたい。

関連記事:1,300円だったスマスイ。神戸須磨シーワールドになる前の須磨海浜水族園を写真で振り返る

関連記事:水族館の入場料はなぜ上がり続けるのか?値上げを生む3つの構造


※写真は2016年9月および2025年2月に筆者が撮影したものです。料金等の情報は2026年7月時点のものです。

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