1,300円だったスマスイ。神戸須磨シーワールドになる前の須磨海浜水族園を写真で振り返る

2016年9月10日、筆者は神戸市立須磨海浜水族園を訪れている。

当時の大人料金は1,300円だった。同じ場所に建つ現在の神戸須磨シーワールドは、通常期で3,100円。約2.4倍である。

前回の記事では「700円が3,100円になった」と書いたが、この700円は閉館直前の縮小営業期(2021年3月〜2023年5月)の料金だ。本館のみの営業になっていた時期で、それ以前の通常営業時は1,300円だった。いずれにせよ、大きく変わったことに違いはない。

須磨海浜水族園は2023年5月31日に閉館し、建物ごと姿を消した。あの日撮った写真は、もう二度と撮れない。

この記事では、手元に残る写真とともに、「スマスイ」と呼ばれた水族館がどんな場所だったのかを記録しておきたい。


あの三角屋根は、もう存在しない

写真1:須磨海浜水族園の外観

まず見てほしいのが、この外観だ。

深く傾斜した巨大な三角屋根。全面をガラスの格子が覆い、その下に「須磨海浜水族園」の文字が並ぶ。両脇にはヤシの木が伸び、手前にはイルカの銅像が置かれている。

この建物は、もう存在しない。

須磨海浜水族園の本館は1987年の建築で、独特の外観は長く須磨のランドマークだった。1957年の開園以来、この場所は神戸市民にとって「スマスイ」であり続けた。

現在この場所に建つ神戸須磨シーワールドは、オルカスタディアム、ドルフィンスタディアム、アクアライブの3棟で構成される、まったく別の施設だ。旧本館の水槽の一部は「トロピカルライフ(外洋)水槽」として引き継がれているが、建物そのものは失われている。

写真を見返すと、平日の昼間にもかかわらず、ベビーカーを押した親子連れや近所の人らしき姿がぽつぽつと見える。1,300円という価格が生んでいた風景が、そこにはあった。


本館の大水槽

写真2:本館大水槽

館内に入ってすぐ現れるのが、この大水槽だ。

薄暗い空間の中で、水槽だけが青緑色に光っている。サメが横切り、エイが底を這うように進む。ガラスの前には十数人が張り付いて、じっと見ている。

派手な演出はない。プロジェクションマッピングもBGMもない。ただ大きな水槽があって、魚が泳いでいる。 昭和から続く水族館の、ある種の王道の作り方だ。

近年オープンする都市型水族館の多くは、照明や映像を駆使した「体験」を売りにしている。それと比べると、この空間は素朴だ。しかし写真を見返すと、来館者が水槽の前で足を止めている時間は、むしろ長かったように思う。

写真3:エイの腹側

大水槽のガラス際を、エイが腹を見せて通り過ぎていった。

エイの腹側は、口と鰓孔の並びが人の顔のように見える。笑っているように見えるこの表情は、水族館の定番の被写体だ。背後には青い水と、群れをなす魚たちが見える。


解説板が、やたらと面白かった

個人的に一番印象に残っているのが、この解説板だ。

ミノカサゴの水槽の上に掲げられていた見出しは、こうだった。

きれいな花には棘がある
もはや攻撃の気を無くす、威嚇的なまでの棘による防御

公営の水族館としては、かなり攻めた文章である。

一般的な解説板は「ミノカサゴ:フサカサゴ科。背びれに毒棘を持つ」といった図鑑的な記述で終わる。ところがスマスイは、ことわざをもじった見出しを立て、「もはや攻撃の気を無くす」という主観的な表現まで使っている。

これは些細なことに見えて、実は水族館の性格をよく表している。展示する側が、生き物を面白がっている。 そしてその面白がり方を、来館者に共有しようとしている。

市営の施設は、ともすれば無難で教科書的な展示に落ち着きがちだ。その中でこうした遊びのある解説を掲げていたことは、スマスイという館の個性だったと思う。


ラッコの剥製が語っていたこと

写真5:ラッコの幼獣の剥製

ガラスケースの中に、ふさふさとした毛に覆われた小さな体が置かれていた。

「ラッコの幼獣」と書かれた札。ぬいぐるみのようにも見えるが、剥製である。

2016年当時、日本の水族館ではまだラッコを飼育している施設がいくつかあった。しかし現在、国内で飼育されているラッコは2頭のみとなり、繁殖は事実上不可能な状態にある。1994年には122頭が飼育されていたことを考えると、劇的な減少だ。

近い将来、日本の水族館でラッコの実物を見ることはできなくなる。そのとき残るのは、まさにこうした剥製や標本だけだ。

この写真は、そういう未来を先取りしていたのかもしれない。

詳しくはこちら:なぜ日本の水族館からラッコがいなくなるのか?


水族館なのにワニがいた

写真6:ワニの展示

意外に思われるかもしれないが、須磨海浜水族園にはワニがいた。

水面から上と下が同時に見える構造の水槽で、複数個体が身を寄せ合うように並んでいる。上半分では陸に上がった個体が、下半分では水中に潜んだ個体が見える。

「水族館=魚」という先入観があると、この展示は意表を突かれる。しかし水族館の展示範囲は本来もっと広い。 両生類も爬虫類も、水辺に生きる生き物として展示の対象になりうる。

須磨海浜水族園はアマゾン館を備えており、熱帯の淡水生物や水辺の生き物にも力を入れていた。海の魚だけを見せる施設ではなかったのだ。


市民の水族館から、観光リゾートへ

こうして写真を並べてみると、旧スマスイの性格がはっきりしてくる。

  • 1,300円という、家族で気軽に行ける価格
  • 派手な演出に頼らない、素朴な大水槽
  • 遊び心のある解説板
  • 魚に限らない、幅広い展示

これは「市民の水族館」の姿だ。 遠方から人を呼ぶための施設ではなく、近所の人が休日に立ち寄る場所。1957年から60年以上、そういう存在としてあり続けた。

現在の神戸須磨シーワールドは、まったく異なる方向を向いている。西日本で唯一のシャチのパフォーマンス、併設のオフィシャルホテル、変動価格制の入館料。初年度は200万人の入館を見込む、明確に観光を意識した施設だ。

どちらが良いという話ではない。老朽化した公営施設を、税金を投じて建て替え続けることは現実的ではない。民営化によって新たな投資が可能になり、シャチという西日本唯一の展示が実現したのも事実だ。

ただ、1,300円で入れた水族館が3,100円になったとき、そこから失われるものは確実にある。 「今日は天気がいいから、ちょっと水族館でも行くか」という選択が、成立しにくくなる。

須磨で起きたのは料金改定ではない。施設が誰のためのものかという定義そのものの変更だった。


まとめ

  • 2016年9月訪問時の須磨海浜水族園の大人料金は1,300円(閉館前の縮小営業期は700円)
  • 現在の神戸須磨シーワールドは通常期3,100円。約2.4倍
  • 特徴的な三角屋根の本館は建物ごと消滅
  • 解説板の遊び心、ワニ展示など、公営館ならではの個性があった
  • ラッコの剥製は、国内からラッコが消えつつある現実を先取りしていた

閉館した水族館の写真は、撮り直すことができない。だからこそ、記録として残しておく意味があると思っている。

同じように姿を消した水族館は、ほかにもある。東京タワー水族館、京急油壺マリンパーク、よこはまおもしろ水族館。訪問記として、順次まとめていきたい。

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※写真はすべて2016年9月10日に筆者が撮影したものです。料金等の情報は当時のものであり、現在の施設とは異なります。

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