鯨骨生物群集 とは?~クジラが生み出す深海生態系のオアシス~

今回は 鯨骨生物群集 について解説したい。

これまでもマリアナ海溝の生き物たちなど深海の生き物について解説をしてきたが、鯨骨生物群集は、深海の底に沈んだ鯨の死骸周辺に形成される独特な生態系だ。

深海環境は一般的に栄養が乏しく、生物にとって厳しい環境だが、鯨の死骸は大量の有機物を提供し、多様な生物が集まる豊かな生息地を形成する。

鯨骨生物群集

鯨骨生物群集は、深海の生態系における「オアシス」とも言える存在で、局所的ながら高い生物多様性を支える重要な役割を担っている。また、これらの生物群集の研究は、極限環境での生命の進化や生存戦略に関する理解を深める上で貴重な手がかりを提供しているのだ。

今回はその 鯨骨生物群集 の形成過程と特徴的な生物たちについて解説をしていく。

鯨骨生物群集の形成過程

鯨骨生物群集は上記のような流れで形成されていく。※参照記事

A. 腐食肉期

サメやエビ、カニなどのスカベンジャー(腐肉を食べる生物)が鯨の軟組織(筋肉など)を急速に消費する。

B. 骨浸食期

鯨の軟組織がなくなると、細菌や小さな無脊椎動物が死骸の周囲に残された有機物を分解し始める。

C. 化学合成期

鯨の骨に残った脂肪分が細菌によって分解されると、硫化水素が発生。この硫化水素をエネルギー源とする化学合成細菌が増殖。

硫化水素をエネルギー源とする化学合成細菌を栄養源とする特殊な生物群が発展する。

D. 懸濁物食期

これらが鯨骨を栄養分とする生態系、すなわち鯨骨生物群集とよばれる生態系となっている。

鯨骨生物群集の生き物たち

鯨骨生物群集には、特殊な環境に適応した多様な生物が存在します。特に注目されるのは、化学合成細菌を栄養源とする生物で、以下のような種類が知られている。

チューブワーム

鯨骨生物群集 チューブワーム

チューブワームは鯨骨から発生する硫化水素を利用して生きることができる特殊な生物で、深海の熱水噴出孔周辺にも見られる。

チューブワームの体内には、硫化水素やメタンなどの無機物を利用して有機物を合成する化学合成細菌が共生している。

この共生細菌がチューブワームに栄養を供給し、鯨骨生物群集のような光が届かない深海環境でも生き延びることを可能にしているのだ。

また、チューブワームは、酸素、硫化水素、炭酸ガスなどのガスを取り込むための特殊な呼吸器官を持っており、これにより、深海の低酸素環境や鯨骨周辺の硫化物が豊富な環境でも効率的に生存することが可能だ。

繁殖という観点でもチューブワームは鯨骨生物群集をうまく活用しており、大量の幼生を産み出し、広範囲に拡散させることで、新たな鯨骨や他の栄養源が豊富な場所を見つける機会を増やしている。

まさに、鯨骨に特化した生き物といっても過言ではない。

ホネクイハナムシ

鯨骨生物群集 ホネクイハナムシ

深海の鯨骨に特化して生息する一群の多毛類であり、鯨骨生物群集に独特の方法で適応している。

ホネクイハナムシは骨から栄養を吸収するために特化した生物であり、鯨骨に直接根を張るようにして生息する。

骨の有機物を消化するための特殊な酵素を分泌。これにより、骨の中の脂肪や他の栄養素を吸収することができる。

また、チューブワーム同様、繁殖戦略も独特で、一部の種では、極端な性的二形性が観察される。

大型の雌は鯨骨に根を下ろし、微小な雄は雌の体内で寄生生活を送る。

この独特な生殖戦略により、深海の広大な環境での出会いが困難な状況でも、効率的に繁殖することが可能となっている。

クモヒトデ類

鯨骨周辺に見られ、特異な環境に適応した形態を持つヒトデの一種。

クモヒトデは鯨の骨を直接食べることで、骨の分解に貢献する。また、骨の有機物を消費し、それを利用可能な栄養素に変換することで、生物群集内の他の生物種のための栄養サイクルを支えている。

また、クモヒトデはチューブワーム同様、共生微生物との関係を持つことがある。

これらの微生物はヒトデの体内で硫黄やメタンなどの化学物質を栄養源として利用することができ、ヒトデはそれを利用することで深海の厳しい環境で生きるためのエネルギーを得ることができるのだ。

まとめ

このように深海の厳しい環境でも、鯨骨という限られた栄養素を利用して生きている生物たちがいる。

深海は宇宙以上に謎が多いといわれるが、さらなる研究の発展に期待したい。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です