入館料3,000円でも赤字? 水族館の電気代 高騰の絶望的シミュレーションと生き残るための戦略

皆さんは 水族館の電気代 が一年でどれくらいかかっているかご存じだろうか?

海遊館や沖縄美ら海水族館などの大型水族館では、約1億5,000万円 〜 3億円以上といわれており、小規模水族館でも約2,000万円 〜 5,000万円と一般家庭からは想定できない規模のコストが電気代としてのっているのだ。

「電気代」と「エサ代」という、水族館にとって削ることが不可能な「生命維持コスト」がダブルで高騰しており、現在水族館は入館料が「3,000円」でも足りないと言われている。

今回は、水族館をビジネス視点で読み解き、なぜ今、入館料が「3,000円」でも足りないと言われるのか、その舞台裏を解説する。

24時間365日、止めることが許されない「LSS」の正体

前述したように大型水族館の一年間の電気代を1億5千万と仮定すると、その電気代の内訳は下記のようになる。

一番電気代としてかかっているのが、「生命維持システム(LSS:Life Support System)」だ。

年間電気代 1億5,000万円の内訳(概算)

項目割合(目安)金額(概算)主な内容
水温管理(LSS)約45%6,750万円ヒーター、チラー(冷却機)、熱交換器の稼働。
ろ過・循環システム約35%5,250万円巨大な循環ポンプ、酸素供給、殺菌装置(24時間稼働)。
館内空調約10%1,500万円展示エリアやバックヤードの冷暖房、除湿。
照明(展示・事務)約7%1,050万円水槽用メタハラ/LED、館内演出照明、事務室。
その他(事務・売店等)約3%450万円エレベーター、調理設備、事務用PCなど。

LSSとは一言でいうと、「水槽の水を、生き物にとって常に快適で安全な状態に保ち続けるための巨大な浄化・循環装置」のことだ。

人間でいうところの「心臓(ポンプ)」と「肺(酸素供給)」、そして「腎臓(ろ過)」をすべて合わせたような役割を担っている。

具体的にどのような仕組みか、3つのポイントで解説する。

金魚を飼っていた人ならわかるかもしれないが、水槽の中は、放っておくと魚の排泄物やエサの食べ残しでどんどん汚れる。

LSSはろ過・水温調整・殺菌・酸素供給の工程を24時間ノンストップで行っている。

水族館のバックヤードに回ると、水槽本体よりも大きな機械室があることが珍しくないが、あれがLSSだ。

    LSSが数時間止まると、水中の酸素が枯渇し、有毒物質が溜まって生き物たちが死んでしまう。

    そのため、予備のポンプや自家発電装置まで含めた大規模なシステムが必要になるのだ。

    また、海水を使う場合、普通の鉄はすぐに錆びてしまうため、高価なチタンや強化プラスチックなどが使われており、これが建設費やメンテナンス費を押し上げる要因の一つだ。

    これらは、閉館後も、深夜も、1秒たりとも止めることができない。止まれば即、展示生物の死に直結するからだ。

    水族館の電気代節約に向けた取り組み

    上記のように多額の電気代を節約するために、日本の水族館が実践している取り組みを紹介したい。

    巨大な「蓄熱」システムと夜間電力の活用

    水族館で最も電力を食う「水温管理」において、夜間の安い電力を賢く使う手法だ。

    • 具体例:京都水族館(京都府)
      • 工夫: 「ピークシフト」という手法を採用している。屋外のイルカスタジアムにある巨大なプール自体を「蓄熱槽(巨大な魔法瓶のようなもの)」として扱い、夜間のうちに集中的に水温調節(蓄熱運転)を行っている。
      • 効果: 昼間の電力消費のピークを抑え、電気代の削減と負荷の平準化を同時に実現している。

    2. 「海水熱」や「地下ピット」による自然エネルギーの利用

    外気よりも温度変化が少ない自然の熱を利用する工夫だ。

    • 具体例:アクアマリンふくしま(福島県)
      • 工夫: 従来の石油ボイラーではなく、「ヒートポンプ」を全面的に活用している。空気中や水中の熱を効率よく集めて温度調整を行うことで、石油燃焼時代に比べて二酸化炭素排出量とともにエネルギーコストを大幅に削減している。
    • 具体例:京都水族館(京都府)
      • 工夫: 「クールピットシステム」を導入。地下にあるトンネル(ピット)に外気を通し、地中の安定した温度を利用して夏は涼しく冬は温かい空気を館内に採り入れることで、空調負荷を減らしている。

    3. LED化とAI(BEMS)による「見える化」

    照明のLED化は今や必須だが、それをITで制御する仕組みが進化。

    • 具体例:名古屋港水族館(愛知県)
      • 工夫: 2025年末に大規模なLED化事業の契約を締結するなど、最新の省エネ照明への一斉切り替えを進めている。
    • 具体例:京都水族館(京都府)
      • 工夫: BEMS(ビル・エネルギー管理システム)を導入。館内すべてのエネルギー使用量をリアルタイムで「見える化」し、ITの力で照明や空調を自動で最適制御している。

    4. 建物の構造そのもので「熱」を防ぐ

    電気を使う前に「熱を入れない・逃がさない」という建築的なアプローチだ。

    • 具体例:アクアマリンふくしま(福島県)
      • 工夫: 建物全体を覆うガラスに**「高遮熱・高断熱ガラス」**を採用。透明度を保ちながら太陽の熱線をカットし、夏場の水温上昇を物理的に防いでいます。
    • 具体例:葛西臨海水族園(東京都・新設予定)
      • 工夫: 2028年前後にリニューアル予定の新施設では、建物の高断熱化に加えて、屋上へのソーラーパネル設置や自然換気システムが計画されており、徹底した省エネビルとしての再生が進められている。

    「脱・展示」という生き残り戦略

    このコスト増に対し、現代の水族館は「チケットを値上げする」以外の、より戦略的な変化を求められている。

    今、現場で起きているのは「水族館の多機能化」だ。

    「夜の水族館」でのBAR・イベント運営による昼間のファミリー層だけでなく、単価の高い大人向け市場を開拓しようとする動きが出てきている。

    茨城県のアクアワールド大洗では、茨城県のさまざまなお酒を楽しめるイベント「宴夜~SAKEめぐりナイト~」を2026/3/7に開催する。

    計4社の茨城県の酒蔵・醸造所が集まり、日本酒だけでなく梅酒やワイン、ビールも味わえるイベントだ。

    試飲券4枚付の入場券は3100円。試飲券4枚とおつまみ5種のプレートが付いた入場券は3900円(100セット限定、2月27日までの販売)。

    これはまさにこれまで水族館と縁がなかった「大人」を意識した企画だ。

    加えて、VR・デジタル展示の導入本物の水を大量に使わない展示を混ぜることで、LSSの負担を物理的に減らす方法などが取られ始めているのだ。

    まとめ:私たちが「3,000円」を払うことの本当の意味

    「最近、水族館のチケット高いな……」と感じるかもしれない。

    しかし、その3,000円は単なる入場料ではなく、「絶滅の危機にあるかもしれない生き物たちの命を、24時間守り続けるための生命維持装置の維持費」そのものだ。

    次に水族館へ行った際は、ぜひその美しい照明の裏にある「ポンプの音」に耳を澄ませてみてほしい。

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