立ち入り禁止の無人島= 南硫黄島 の生物たち
皆さんは 南硫黄島 という島をご存じだろうか?
東京から南へ約1,300km離れた位置に存在する小笠原諸島の島である。

日本政府により原生自然環境保全地域に指定されており、その中で唯一全域が立ち入り禁止となっている。
また、島に淡水がないためこれまで人が定住したことのない本物の無人島である。
南硫黄島の標高は916mで小笠原諸島、最高峰の火山島となっている。
南硫黄島 の歴史
南硫黄島が記録に残っている最古のものは1543年にスペイン船「サン・フアン」によって発見されたとされている。当時は「サン・アグスティン火山」と命名された。
そして、1885年末に函館を出稿して青森に向かっていた松尾丸がしけに遭い83日間漂流し、1886年3月南硫黄島に漂着し、人類が初めてこの島に上陸した。
3名がこの島に残り、3年半の生活の後、母島の漁船により救助された。
この事件以降、年に一回小笠原・硫黄島航路の定期船が南硫黄島を周回し遭難者の有無を確認するようになったという。
そして、1891年正式に日本の領土として認定され「南硫黄島」という名前が名づけられた。
その後、相次いで植物調査を目的とする調査がなされるようになった。
戦後、一度南硫黄島はアメリカの手に渡るが、1968年に日本へ返還される。
そして、1972年手つかずの原生自然環境を守るため、国の天然記念物に指定された。
また、1975年に日本初の原生自然環境保全地域に指定された。
さらには2010年には小笠原諸島として世界遺産に登録された。
南硫黄島 の生態系
いよいよここから本題の南硫黄島の生態系について解説したい。
南硫黄島には23種の絶滅危惧種・準絶滅危惧種が記録されている。
ナガバコウラボシ、ホソバシケシダ、オオトオキイヌビワ、ムニンカラスウリ、ムニンホオズキ、ナンカイシダの6種は南硫黄島の個体数が日本の個体数の5割以上を占めるとされている。
これらの植物のほとんどが標高750m以上で確認されている。
しかし、これらの植物は2007年の調査で標高の低い地点から個体数を減らしていることが確認されている。
更にこのとき、7種の外来種とおぼしき植物が確認されている。
これらの外来種は鳥の羽毛に付着して漂着したと考えられている。
さて、植物の生態系から動物の生態系に話を移そう。
南鳥島で存在が確認されている哺乳類はオガサワラオオコウモリだけである。

小笠原諸島に生息する日本固有種であり、翼を広げると80㎝ほどもある。
戦後アメリカの統治時代にグアム島に売られたり、農作物に被害を与えるとして駆除されてしまったため、個体数が減少した。
南硫黄島には100体以上の個体が確認されているという。現在は国内希少野生動植物に指定されている。
南硫黄島のオガサワラオオコウモリは他の島の個体と異なり昼間に活動する特徴があり、これは天敵である猛禽類がいないこと、慢性的な食物不足のため、昼間も餌を探さないといけないなどの理由が考えられる。
一方、他の小笠原諸島の島々で外来種として悪影響を与えているネズミの生息はこれまでの調査では発見されていない。
鳥類ではこれまで海鳥8種、陸鳥6種の繁殖を行っている可能性がある。
このうちクロウミツバメは南硫黄島が世界で唯一繁殖が確認されており、鳥類にとっても非常に重要な島となっている。

南硫黄島と似た環境の北硫黄島との大きな違いとして、北硫黄島は人によって持ち込まれたネズミの影響で海鳥の個体数が減少しているのに対して南硫黄島はその影響がなく海鳥の死骸やフンから供給されるリンが極めて豊富で豊かな生態系を形成していると考えられている。
ここまで南硫黄島の生態系について解説してきた。
地球温暖化の影響で南硫黄島の環境も影響を受けているが、今後も手つかずの自然が守られることを期待したい。