マリアナ海溝の生き物たちはどのように極限環境に適応しているか?
皆さんは、マリアナ海溝をご存じだろうか?
世界の海の中で一番深い場所として知られる。
その最深部は水面下10,983mに達し、エベレスト(標高8,849m)をひっくり返してもその底には届かない。
それ故、水圧もすさまじくマリアナ海溝の最深部分の水圧は実に108.6MPaで、1cm²に1,086kgの重さがかかる。
指先に1トンを超える圧力がかかることを想像してみて欲しい。とてもじゃないが、生物が生存できる環境とは考えられない。
また、超深海はその過酷な環境故生物も少なく、栄養分も少ないため海の砂漠とも呼ばれる。
しかし、これまでの調査でこのような極限環境にも適応して生息している生き物が存在することが確認されている。
今日はそれらの生き物がいかにこの環境に適応しているのか?解説したい。
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マリアナスネイルフィッシュ=世界最深部に住む魚
マリアナ海溝のような、超極限環境となるとそもそも生物の体の大部分を構成するタンパク質が水圧に押しつぶされて不安定になり、その形状を維持することが不可となる。
では、マリアナスネイルフィッシュはいかにその体を保っているのだろうか?
その鍵はトリメチルアミン-N-オキシドという物質と、クサウオ科の生物特有の体の柔軟性にある。
まず、トリメチルアミン-N-オキシドは軟骨魚類に多く含まれる化学物質で分解されると特有の臭い匂いを発する。
ちなみにサメが尿くさいのは、この物質を大量に保持しているからだ。
サメは浸透圧調整物質として、尿素を多量に体内に保持しているが尿素を多く体に保持しすぎるとタンパク質を変性させて体に悪影響を与えてしまう。
そこでこの、トリメチルアミン-N-オキシドという物質を多量に保持することでタンパク質の変性を防いでいるのだ。
このトリメチルアミン-N-オキシドの働きを深海でも活用し、タンパク質の変性を防いでいる。
また、クサウオ科の生物はぶよぶよしていて体が柔らかく、軟骨を持っていることも高い水圧に適応するうえで重要だと考えられているが詳しい適応メカニズムに関してはいまだ研究が続けられている。
カイコウオオソコエビ=アルミで覆われたエビ
カイコウオオソコエビはマリアナ海溝の最深部チャレンジャー海淵にも分布するとされている。
このエビは体内に多量の脂肪(トリグリセリド)を貯め込むことで、餌の少ない深海の過酷な環境に適応している。
また、カルシウムでできた外骨格の表面に「アルミニウムを含む膜」をまとっていることで知られている。
一般に深海の水圧により炭酸カルシウムが溶けてしまうため、超深海にエビやカニは生息しないとされていたが、カイコウオオソコエビは驚きの進化を経て極限環境に適応していたのだ。
ジョウモンジダコ
ジョウモンジダコは7,000mを超える深海にも生息しており、最も深い場所に住むタコとして知られている。
耳のようなヒレが特徴的で見た目がディズニーの某キャラクターに似ていることからダンボ・オクトパスと英語で呼ばれている。
光の届かない深海に生息することからタコ特有の墨袋を持たない。
体の柔らかい軟体動物は水圧の強い深海に適応しやすいと考えられる。
ホネクイハナムシ
海底に沈んだクジラの死骸から発見された。(写真https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/quest/20160224/)
クジラの死骸の骨や肉を養分とするからゾンビワームとも呼ばれる。
餌の少ない深海で巨大でかつ、そこそこ安定的に供給が期待できるクジラ等の生物の死骸を利用する事で生きながらえているのだ。
また、深海にはホネクイハナムシの他にもクジラの死骸を餌とする生物が複数発見されており、これらは鯨骨生物群集と呼ばれる。
まとめ
解説したように深海には、その極限環境に適応するために特徴的な生態を持った生き物が多数存在する。
また、深海は未知の部分が多いためこれからもたくさん新種の生物が発見されることが予測される。
今後の研究の進展にも注目だ。